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コラム・弁護士

 
   

「共同監護」の多様化――「並行的親業」の実践を

後藤 富士子

2024年7月

弁護士 ・ 後藤 富士子

1.「単独親権制」と「小選挙区制」

現行民法では、婚姻中は父母の共同親権とされているが(818条3項本文)、離婚後は必ず父母どちらかの単独親権とされている(819条)。それ故、離婚紛争では、離婚それ自体よりも「親権争い」が熾烈になる。

一方、親権者として「子の福祉」の見地から問題があれば、離婚と関係なしに、親権喪失(834条)や親権停止(834条の2)の制度がある。これは、当該親の親権者適格を絶対的に判断する。一方、離婚後単独親権制は、現に2人いる親のうち1人だけを親権者として選定する。だから、「単独親権争い」は「小選挙区制」を想起させる。

「小選挙区制」の最大の欠点として挙げられるのは、「死票」の問題である。仮にA候補が得票率51%、B候補が得票率49%であれば、B候補に投票した民意は無に帰する。しかも、「選挙区」の定め方によって、更におかしくなり得る。「ゲリマンダー」とか「カクマンダー」(これは田中角栄の「カク」)といわれるのは、地理的に不自然な「選挙区」を恣意的に定めたことで非難された。

「小選挙区制」は、二大政党による政権交代をもたらすとして導入された。しかし、現実は自民一党支配が強固になり、政党は選挙に勝ち残るための組織に堕して政治の劣化をもたらしたと指摘されている。これに対し、元新党さきがけ代表代行の田中秀征氏は、「中選挙区連記制」の導入を提唱している(朝日新聞7月11日朝刊インタビュー記事)。定数は3〜5で、有権者は2人の候補に投票できる。ひとつの政党から複数立候補でき、有権者は、同じ政党の候補者2人に投票することもできるし、与野党に1票ずつ投じることもできる。無所属や大政党に属さない候補者が当選できる余地も広がる。

こうしてみると、単独親権制は、親権を剥奪された親の「親力」を廃棄しているのであり、もったいない限りである。他方の親を排除して単独親権に固執する親が、果たして「子の福祉」「子の最善の利益」をまじめに考えているのか、疑問である。

2.廃棄される「親力」の有効活用法

その一つとして考えられるのは、「親権と監護権の分属」であり、審判例を紹介する。

長男が生まれてから父母双方が子育てに関わり、子との実質的な関わりをもってきたが、離婚後親権者は母である。母は、調停で定められた面会交流を子自身が拒絶していると言って応じず、再度の手続で試行的面会交流が実施された。母がいないところでの父子の交流は順調であった。しかるに、母が「ママ見てたよ」と子に言った途端、長男が調査官に暴力をふるうなどした。そこで、裁判所は、母についてマイナスの評価と子の引き込みを認定し、親権者を父、監護者を母とする「親権と監護権の分属」を認めた(福岡家審平成26年12月4日)。

しかしながら、「親権」から「監護権」を差し引くと「財産管理権」しか残らない。「財産管理権」では、「監護・教育」は覚束ない。そうすると、「親権」が面会交流の法的根拠となるにしても、その内容が実際にどうなるかは別問題のように思われる。面会交流は、調停で取り決めがされても監護親がこれを反故にすると、実現は困難を極める。かといって、親権者・監護者の変更が子の福祉に適うとは断定できない。制裁的に親権喪失や親権停止を検討しても、同じである。

ところで、「子の福祉」「子の最善の利益」は、家事事件では大原則のように語られるが、実務の現場でどのように運用されているのか、不思議でならない。というのは、親権喪失事由・親権停止事由がないのに「単独親権制」を絶対命題としたうえ、「子の意向」の調査で結論を導くからである。これでは、親権を剥奪される親の「親力」を有効活用する視点は生まれず、「子の最善の利益」に繋がらない。この点で、「離婚後単独親権制」を廃止すれば、家事事件をめぐる風景は良い方向に激変するだろう。

3.当事者家族による多様な「共同監護」の創出

婚姻中を考えてみればわかるように、法制度が「共同親権」「共同監護」であっても、現実の「監護」の在り方は当事者が創出するしかないのである。そして、子どもが自尊感情豊かに健全な成長を遂げるには、日常生活の中で親から個人として尊重されなければならないし、子ども自身が「子の最善の利益」を望んでいる。両親は、離婚するのも別居するのも自由であるが、それを原因として「親力」を低下させることは、子に対する背信である。

離婚するほどなのだから、そもそも「共同親権」「共同監護」は無理だというのは、典型的な責任放棄である。「共同」が無理だからといって、相手方を排除することが正当化されるはずがない。排除しないで、互いが各自のやり方を尊重すればいいのである。すなわち、パラレル・ペアレンティング(並行的親業)である。これは、親各自が、「子の最善の利益」のために自分に何ができるかを考える点で建設的である。あたかも「中選挙区連記制」のようで、現実的な希望が見えてくる。

 

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